たえてさくらのなかりせば

あなたに会わなければ私の心は平穏で退屈だったろうに。チクショーありがとう! という気持ちを書くところです。

8/22『ホット・サマー・ナイツ』『永遠に僕のもの/El Angel』

2大美少年夏祭り!

アメリカの美少年・その瞳からは逃れられないティモシー・シャラメと、アルゼンチンの美少年・銀幕デビューにして世界を虜にしているロレンソ・フェロ。それぞれの最新作が同日公開。



配給先も手を組んでコラボ宣伝してるし、これは一夏の思い出に観に行くかとほいほい人を誘って行ってきたわけです。

そんな感想。ここから先はネタバレありです。


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一言で言えば、「一夏の思い出にハッパで大金持ちになっちゃう美少年」と、「音楽を聴いたら踊り出してしまうように邪魔な奴をすぐさま撃ち殺す美少年」でしたね。

『永遠に僕のもの』は実際似合った犯罪者をモチーフにしていると言うことで承知してたんですが、『ホット・サマー・ナイツ』がまさかそんなストーリーラインだと思わなくて観ながら焦りました。

『ホット・サマー・ナイツ』2018アメリ

  • あらすじとキラキラアオハル映画要素


愛する父親を亡くし、大きな喪失を抱えたまま
立ち直れない少年の人生を大きく変えた、ひと夏の経験。

美しい海辺の町での初めての恋、クールで危険な仲間との友情、裏切りーー主演に今最も輝いている若手俳優ティモシー・シャラメを迎え、気鋭の映画製作スタジオA24が贈る、甘く、危うい青春映画は、まさに<HOT SUMMER NIGHTS(熱帯夜)>にふさわしい一作。

1991年アメリカ。
大学進学を控えているダニエル(ティモシー)は、父親を亡くしたことを引きずり夏休みを半ば引きこもって暮らしていた。それを心配した母親に、半ば強引にマサチューセッツの田舎に預けられてしまう。知り合いも無く、避暑に来た金持ちと地元民の間で孤独に夏休みを過ごすだけと思われたが、彼の一夏を、そして人生を大きく変える出会いが待っていた・・・

こういう宣伝の雰囲気だったので
「あーひと夏の恋とか父親の死を受け入れる葛藤とかして、実家へ戻る日焼けした身体が大人びて見えるみたいなキラキラ成長物語なのかな」って・・・・・・
「『永遠に僕のもの』が”闇の美少年”ならこっちは”光の美少年”だな~」って予想して観に行ったら、序盤のパーティーでダニエルが大麻に嵌まってどん引きしました。
ええ・・・あらすじにはそんなことひとつも…どうやって受け入れれば・・・公式はなんて……


ははーん、このパネルを見る限り公式もアオハル映画として打ち出してますね!! 
じゃあそれに乗っかって感想書いてみましょうか!!(やけくそ)

アオハル映画の欠かせない要素である「知らない土地での一夏の恋、男の友情、ちょっとした冒険そして成長」がこの映画でも存分に楽しめるわけですが、
最後の「ちょっとした冒険」が特にエッジ鋭くてですね!

大麻密売で小遣い稼いでる田舎のヤンキーとダチになる」
「ダチをそそのかしてもっと大量に仕入れさせ大金持ちになる」
「気が大きくなって胴元を出し抜いてもっと稼げるコカインを仕入れようとする」
「胴元にバレてダチは銃殺される、大型ハリケーンの中必死に逃亡する」

どうですかこのキラキラクライムストーリー……ダメだろ…

吸入器が手放せず、パーティーに足を運んでみても誰とも話せないでいたダニエルが、稼ぎが増えることで徐々に自信を付け、一目惚れした女の子にも頑張って声をかけられるようになるんです。
よかったねダニエル!ガリで買った高級スポーツカーでピクニックデートもするよ!


いやすごくいいシーンだし美少年と美女なんですけど……


残るアオハル要素として成長があるんですけど、後述の通り成長というか生存すら怪しく終わるんですよね・・・大丈夫かなあ

  • 問題から目を逸らした「つかの間の栄華」に気づけるか


観ながら終始「いいのかなぁ大丈夫かなあ」と思っていたんですが、なぜそう思えるかといえば「こんな成功永く続くわけない」と観てる側は知っているからですよね。先を見通さず今の成功だけを追っていてはいつか絶対落とし穴が来る。

大麻もコカインも、ダニエルは金を稼いでもっと楽しく暮らすための手段としか見てないわけです、自分が売った大麻が街にどんな影響を及ぼしているか・どんな人間から仕入れているのか・そいつを裏切ったとき、どれほど冷酷に掌返しされるのか・・・・・・
もっと身近な話にしたって、彼女と密売ダチにそれぞれ秘密にしていることがある。
密売のダチ・ハンターの妹が一目惚れの相手なわけですが、彼女は兄の大麻密売を憎んでいるため、自分が一枚噛んでいる(しかも当初より規模を大きくさせている)なんてことは絶対言えない。
ハンターにも「妹に手を出す奴は殺す」と最初に牽制されているから、「こないだデート行っちゃった」とは口が裂けても言えない。
いっぺんに彼女と親友にバレること・バレた後のことがダニエルにはまったく想像ができていない。

その証拠として、ダニエルはどちらを取るか葛藤するでもなくのほほんと二重生活を楽しんでる。賭けに出て途方もない量の大麻を捌ききった後のお祭り騒ぎチェキ群からは「このサイコーな夏永遠に続かないかなあ!」というキラキラしか伝わってこない。酒と薬のオーバードーズで鼻血と吐瀉物まみれのティモシーが観られるのはこの映画だけ!

彼女も親友からも縁を切られて、途方に暮れてただアクセルを踏み込むダニエル。
泣きっ面に蜂のごとくそこへ襲いかかるのは、成功の証だったスポーツカーを事故粉砕するトラックと、町を飲み込む超大型ハリケーン

知らない土地と降って湧いた大金という設計ぐらっぐらな舞台で踊り狂えるのは、「まあなんとかなるでしょ」って根拠無く思えちゃう10代しかいない、って客観視させるようにあえてダニエルはとびっきり痛い目を見たのかな。痛い目を見てからじゃないと、ようやく自分の自信に何も根拠がなかったということに気づかないのだ。


似たような話で、「台風でどれだけ被害があるか、子どもの頃はよく分かんなかったなあ」と思い出した。川も遠い地域の家なので、「ただの雨と風でしょ」って軽く考えていた。
大量に雨が降ると川が氾濫して濁流で家が押し流されるとか、風で木の板やレンガが吹っ飛んでくるとそれが風と同じスピードで身体にぶつかるとか、どれだけの衝撃になってどんな怪我をするかとか、全然想像できていなかった。
被害に遭って呆然とするひとびとをテレビで何度も見て、ああこんなに恐ろしく取り返しの付かないことなんだとようやく身に浸みてきた今現在である。

失敗を知らないうちの「まあなんとかなるでしょ」っていう根拠無い自信、自分の経験を思い出すとほんとうに胸が痛い。先を見通さずにその場の勢いでうぇいうぇい決めてしまった言動って、どれも取り返しが付かない。機会も大切な人も一斉に無くしてしまう。

どれだけ周囲から警告が発されていても、経験ないし想像が及ばないうちは知らずに渦中へスキップで飛び込んでしまうのかなと、巨大ハリケーンだと知っていて風雨が強まる先へ車を走らせるダニエルの姿を思い出しながら考えます。*1彼が生き延びたならきっと、次は橋を叩いて渡るでしょうか。


まあ上記のような小難しいことを考えずとも
大麻初体験で勢いよく吸い込んで”ハイ”になるティモシーダニエルの表情がキュート」だとか
「彼女のマスカラと互角に戦うティモシーのバシバシ睫毛 is 正義」とか
「欧米の顔つきだと鼻先がくっつくいちゃいちゃが観られてよいなあ」とか
「90’のネオンサインや看板デザイン、音楽もエモくて最高」とか

いろんな観点で楽しめる映画だったのでオススメです。ドライブインシアターで「ターミネーター2」観てたよ!

一緒に観てくれたお姉さんが「顔が良いと何でも許せるところはあるね…」と帰りに呟いていたのが印象的でした。密売は計画的に!!


『永遠に僕のもの/El Angel』2019アルゼンチン

  • カルリートスの魅惑的美少年の造形が100億点

カルリートスことカルロスの、人を惹きつける姿はそりゃもうみんなが語るとおりで。ぐうの音も出ない美しさ。

ティモシー・シャラメは写真の完成度が高いですが一方ロレンソ・フェロのカルリートスは動画こそ美しい。
盗みに入った家でステージさながら踊る冒頭も、盗品の真珠のピアスをして鏡の前で「モンローみたいだ」と呟く姿も、ラモンの母親がセクシャルに親指で捏ねてくる真っ赤な唇も、わたしの好みの造形よりは少し大げさ・下品とも取れるのに、映像からは目が離せない。
キレイに言えば実在する肉体を持つがゆえの美しさ、俗に言えばそそる身体って感じ。

ビジュアル・役者のポテンシャルも悪魔的美少年そのものとしてポイント高いですが、やはりストーリーに関わってくる点としてカルリートスの「悪行に対しての躊躇いのなさ」が本当に悪魔よりたちが悪く、またその迷いのなさが人間を突き抜けてて神秘的にも思えてしまうんだなあ…

欲しい物は何でも手に入れ、目障りな者は誰でも殺す。息をするように、ダンスを踊るように、ナチュラルに優雅に。

こうあらすじに書いてあったので、まあ気に入らなければ殺しちゃうんだろうなあとは思ってたんだけどほんとうに呼吸をするがごとくスッと人を殺す。
相棒ラモンの父親に教わった拳銃を手指のように扱って、盗みに入った先の主、寝ていた警備員、仮眠してたバーの店員、みんな殺す。ラモンの「待ってよ!ただの空き巣が強盗殺人だよ!」という悲痛な表情も何処吹く風で、ゆったりと宝石を漁っては鏡の前で身につけて「若い頃のママに似てる」とうっとりするメンタルの剛胆さ。

原題を考えるに、「僕は天からのスパイ」と自称するシーンがあることも相まって「かわいい美しい天使ちゃん(はぁと)」なのではなく「人間界に一時的に降りてきてる天上の存在」なのですよね。いわゆる「天から遣わされてきたし人間界の理とかわかんなーい」と小首を傾げながら欲しいものを盗み目障りな奴を消すという。

監督も

(彼は)神の注意を引き、神を感嘆させたいんだ。日常すべてが舞台であり、死さえも現実のものだと思っていない。伝説の人物になったつもりで歩き、ダンスをするように強盗を行う。

こう言ってるし、やはり地上の常識で測る人物ではないのでしょう*2
そんなんがたっぷり楽しめる映画です。お目当てに見に行く人はとてもふんすふんすできるでしょう。


  • 振り回され系不憫ハンサム→(越えられない壁)←←←←←←←←←←ド悪魔美少年

観に行くまで特に注目してなかったんですが、カルリートスとつるんで悪事を働くラモンが、まぁ~~~~~~顔がいい。



このーっ!このーっ!このラテンハンサム!!!!!!!えっなに……その瞳の美しさはなに……
あとでパンフを読むと役者のチノ・ダリン氏は89年生まれだそうで、エッロレンソと10歳違う、というか30歳で高校生役、どおりで色気の付き方が段違いなはずだわいな…

初めて学校でカルロスとラモンが向き合うシーンで「は、顔がいい」となってそこからもう大変だった。
あと中盤盗品の絵画を売るためにコレクターに会いに行くシーンがあるんですが、交渉中のラモンの後ろ姿がまぁ~~~~良い。ラテンの人ってどうしてあんなに腰から脚にかけての筋肉の付き方が素晴らしいんでしょうか。踊るための筋肉。
待ちながら酒を飲むカルロス視点のシーンなんですけど、カルロスの情が入っているにしろ良い身体つき。

ラモンが軽犯罪一家の生まれということで、善良な家の生まれだったカルロスも盗みに荷担していくわけですが、蓋を開けてみればカルロスの方がずっと極悪だったわけで。
次第にカルロスのペースに巻き込まれて逃げられないまま、ラモンはしばらくふたりで強盗と逃亡の日々を続けます。

上記で話したとおり、カルロスがすぐ人殺しちゃうからラモンが焦ってあたふたするという天丼を何回かやります。逃亡中とは思えないよう自由な振る舞いを怒りながらも、ラモンはカルロスの何からも解き放たれている思想に惹かれて離れられないんだなあという、不憫さにちょっとぐっと来ます。世話焼きイケメン好きです。

一方カルロスも、誰も愛さないような顔をしつつもラモンに執着しているけど、何せそのアプローチが若干重い上に通じない。鏡に映るふたりを指してラモンはゲバラ/カストロと例え、カルロスは大統領夫婦のエビータ/ペロンと訂正する。寸の間見つめ合って、目を逸らすのはラモンからだ。

いやでも今ちょっと魅了されてましたよね、もうちょっとで魅了に負けそうでしたよねラモンさん!!!
そうスクリーンに手を伸ばしたくなるシーンだったし、もっと言えば「これあと1秒見つめてればキスしただろうに」というシーンがここを含めて3回くらいあった。絶対そう。


素知らぬ顔をしてるのにあるとき顔を覗かせるめちゃくちゃ重い執着~~~それに気づかない本人~~~~大好きな奴です。日本語題の『永遠に僕のもの』はその辺の雰囲気を拾った感じでしょうか

ボーイズラブコミックで読んだ経験のある、クライムサスペンスと愛情の混ざって濁ったどうしようもなさが映像で作り上げられた感じ。





こちらは本編映像をこれでもかこれでもかと公式が流しているので、気になった方は是非劇場で。
OPダンスと鏡を通して2人で見つめ合うシーンふたつが雰囲気知るのに激推しします。



ちなみに渋谷シネマクイントでは作家さんからの応援イラスト飾ってありました。
中村明日美子さんわかりみしかない……わたしは『10DANCE』の井上佐藤さんにラモンを描いていただきたいです。

*1:そういった苦い痛みを抱えた少し年上の世代からティーンエイジに向けての「立ち止まって考えろーーー!!!先を少しだけ想像してみろーーーー!!!川の動画を撮りに行くなーーーー!!!!」というメッセージと解釈するならこれは公式通りアオハルなのかな。いややっぱこれが全面に押されているなら説教くさくてかなわないな………本編自体は全然そんなこと受け取らず楽しめました。

*2:実在の犯罪者をモデルにしつつも、性格や造形はオリジナルとしたというので、この辺の人物観がそのまま実在している相手の発言ではないです。念のため