たえてさくらのなかりせば

あなたに会わなければ私の心は平穏で退屈だったろうに。チクショーありがとう! という気持ちを書くところです。

8/15 『サマー・オブ・84』 咀嚼感想

友人に誘われて観ました。

「ラストがトラウマ」「衝撃のラスト」前評判こんなに上げてていいの~~~???とニヨニヨしながら観てみました。*1

終わって席を立つ辺りではもうもやもやする。
トラウマ級の衝撃、というにしては鈍い。というか、無い。
衝撃 is どこ?
でも、つまらないのではない。スッキリと観やすいし主人公たちの冒険も最後まで飽きない。面白かったしよく出来ていた!!

でも制作者の意図とは?

わかんなくてもやもやしてたけれど、帰り道友人たちと話して整理して、この夏の終わりにまた振り返ってなんとなく言語化できそうだったので、書けるかな。


端的に言えば鈍い気持ち悪さが残るお話。その気持ち悪さってなに?とほぐしてみたやつです。
それが制作者の意図していたものだったら、この気持ち悪さを映像化できたのはすごいなあと思う。

ネタバレはもちろんあるし、想像による補完も含めた感想。ホラー詳しくないです。

ネタバレの前に友人チームの中でちょっとスレてるけど幼さの抜けない美少年イーツくんを観てください。お顔がよろしおすな〜〜〜*2




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最初にもやついた理由はたぶん、ジャンルを測り間違えていたんだろうなと。先方の提示したジャンル名とこちらの受け取り方に齟齬があった。

友達から上記の3単語だけ聞いて勝手に「ジュブナイル要素のあるスラッシャーホラー」って組み合わせた結果、『IT』(2017)を観る気満々でこの作品を観たんですよ。だからあれっ?って思った。

殺人鬼、あんまり作中で子ども殺さないな。血が出てこないな。脅かしてこないな。子どもたち普通に親に怒られたな・・・。
ようやく家に侵入してもちゃちい隠し部屋とちょっとした死体(ちょっとした?)だけだな、アッ復讐!復讐だー!そーれっ復讐復讐・・・あっ終わってもうた。


整理した今なら言えるぞ!「ホラー映画オマージュ愛に溢れた現代的ジュブナイル映画」だなこれは!
と思って今やっと公式イントロダクション読んだら「熱烈な80年代オマージュに貫かれたジュブナイル映画」ってハッキリ書いてありましたね。や、やっぱり~~~

「現代的」と書いたのは、昔から愛されてきた正統派ジュブナイルを歪めて、一筋縄でいかなくしたところが面白いところなんだと思う。

1984年、オレゴン州イプスウィッチ。緑豊かな郊外の住宅街で暮らすデイビーは、エイリアン、幽霊、猟奇犯罪などの記事の収集に余念がない少年だ。
そんな彼の15歳の夏に、近隣の町で同年代の子供たちばかりが狙われる連続殺人事件が発生。その犯人が向かいの家に住む警官マッキーではないかとにらんだデイビーは、親友のイーツ、ウッディ、ファラディとともに独自の捜査を開始する。
はたしてデイビーの推理は正しいのか、それとも行きすぎた空想なのか。
やがてデイビーの行く手に待ち受けていたのは、彼の想像をはるかに超えた恐ろしい現実だった……。

正統派ジュブナイルにおける、そして主人公たちの思い描いていたストーリーはこうだろう。
「得体の知れない悪い奴を見つけて、その正体をみんなに晒して追い出して、街は平和になりました。勇気を出して冒険した僕らはヒーローだ!めでたしめでたし!!」
この物語の邪悪な点、そして妙は、この筋書きの最初と最後をぐしゃぐしゃに握りつぶしているところだ。

  • 「めでたしめでたし」で終わると思ったか

まあ犯人、復讐に来るとは思いましたよ。逃げてから数時間良く潜んでいたなあとは思うけど。
友人を殺し、少年を傷つけ、犯人は歯を剥いて脅かす。いつかお前を殺す。ただしすぐではない、いつかまた自分が目の前に現れる恐怖を、味わいながら生きていけ……

子どもの頃読んだ冒険物語って、自分の世界から別世界に行って大冒険してきて、帰ってきたらいつも通りの夕方で、お母さんが夕飯に呼んできて・・・みたいなやつだったよね。ドラえもん映画とか『二分間の冒険』とか。

彼らは夏の冒険がしたかったんですよ。誰も傷つかずに勇気を示して、少しだけ自己肯定感を上げて、元の場所に成長した姿で帰りたかった。それと同時に、非現実的な物語に関われるかもしれないというワクワクもあった。誰もまたプレイしてないゲームを起動するような。
ちょっと冒険心の池に足首浸かるくらいでよかったんですよ、犯人を突き止められなくてもきっと。それがねえ……ずぶずぶの沼に頭まで沈められたうえ、臭いが一生取れなくなってしまうとは……

非現実のドキドキの源であった殺人鬼が、これから先も続く現実とがっちり接続されてしまった。
観ていてげんなりするくらい、夢の砕かれるトラウマやんなあと思いました。
(たぶん、ちょっと選択肢間違えたんだろうね)(証拠品が一部足りなかったからノットグッドエンドだったのかもしれないね)

この点については後半「まあ来るべきだよな」と思っていたので、衝撃のラスト!に備えることができました。そしたらそれが衝撃のラスト!だったという。

  • 「連続殺人鬼も誰かの隣人だ」=「得体の知れない誰か」ではない

冒頭主人公が語り、この作品の宣伝にも使われているテーマとも言える台詞。
素直に受け取れば「身近なところにも危険は潜んでいる。疑ってかかろう」という意味だが、もうちょっと捻ったことも同時に伝えているのかなあと。
「連続殺人鬼も、プロじゃなくてあなたの隣人くらいのひとがやっているんですよ」という。

殺人鬼、と聞くと私はすぐに『金田一少年の事件簿』レベルの彼らを思い浮かべてしまう*3*4。多分そこに憧れを抱いていたから、今回の犯人に肩すかしを食らったのだ。

殺人鬼と疑われ、そして終盤その犯行が暴露される隣人の警察官は、主人公たちのことを警戒しているけどわりと順調にアリバイが見つかっていく。というか遺品の隠し方が甘かったり尾行に警戒が薄かったり、ちょいちょいぼろが出ている。
というか、第一声からもうだめだよ!誘拐事件が相次いでいるところで「子どもはかわいいね、冷凍保存したい」とか言ったらそりゃ主人公も疑うわ!

殺害の仕方もちょっと工夫してるのかと思いきや特にその描写はない。死体の皮を飾ったり自分の昔の服を着せたりという強烈さが見つけられなかった。
同じ特徴の少年ばかり誘拐すると言うから、てっきり何か性癖をぶつけているのかと思ったけれど、殺される前だった男の子も無傷に見えたしね。

要するに、殺人の仕方、その隠滅の念の入れ方が普通のおじさんレベルなのだ。なにかしら美学に裏打ちされた、徹底された技術を使っているわけでもなく、ただちゃちい。
「舐めてた隣のおっさんが凄腕殺人鬼だった」のではなくて「郊外住みのおっさんだけど殺人鬼やってみた」なのである。素人ものである。


だからこそ、現実味があって気持ち悪いなあと思える。
劇中でもそうだけど、なにか残酷な事件が起こると「まさかあの人がそんな」「隠れていた衝動」とみんな言う。いつも挨拶していた彼とは、全く違う強烈な一面が犯罪を起こさせたのだと、そう思いたがる。別人として、遠ざけたいのだ。
トラウマを抱えた過去や抑圧が、脳の欠陥が、彼をあらかじめ殺人鬼たらしめ、あるいは殺人技術への飽くなき追求が、周囲への強い怒りが、彼を凶行へと駆り立てたのだと。

んなこたない、と持論として思う。
現実で犯罪をするひとって、そのへんのなんでもないひとが大半だ。そして、誘拐も、虐待も、殺人も、そのへんのなんでもないひともできるしちょっとくらい隠せたりする。そんで隠しながら、普通の顔して庭いじりしたり、仕事に専念したりできる。

この事実、そして「そのへんのなんでもないひと」というのに自分も含まれるという意味は、普段抱えるにはあまりにも恐ろしい内容だから、みんなして忘れた振りをしている。そうして物語には「そのへんのなんでもないひと」ではない、犯罪に凝った敵が登場する。

私は思うのだ。
物語の中でくらい、やたらと美しかったり挙動のキレが良かったり、詩的な台詞がぽんぽん出せたりダイイングメッセージがグラフィティカルだったりするひとが誘拐殺人犯であって欲しい。

「そんなことないでーーーす!」って言いながら脚本書いたのだろうか。邪悪だな(笑顔)

面白い制作集団だなあと思ったので、別の作品も観てみたいな。

*1:そんなにホラー経験は無いです。「IT」や「ハロウィン」は面白かったです。ホラー・グロというだけで過敏にはならないけど、驚かして怖がらせる演出は苦手マン

*2:MCUスパイダーマンのオーディション最終選考まで残ったひとりらしいです。台詞無いまま涙だけで家族間の葛藤を語るシーンがあって慄いてしまった、素晴らしい

*3:いちいち死体を風車にくくりつけたり、マジックで電車から消したりする粋な彼らだ

*4:ネトフリで作業BGMにしてるから…